2024年10月21日、「メメントモリ」等のスマートフォン向けのゲームの開発を行うバンク・オブ・イノベーション社(以下、BOI社)は、大手ゲーム会社のセガ社から特許権侵害による差止請求と損害賠償請求訴訟を提起されたことを公表しました。本記事では、訴訟の背景、特許の内容、BOI社が取り得る対抗策について解説します。

訴訟の概要

  • 原告: セガ社
  • 被告: BOI社
  • 対象サービス:
    • 「メメントモリ」
      • 2022年リリースの放置系RPGで、一時はBOI社の売上の約90%を占めるほどのヒット作です。水彩画風グラフィックと幻想的な世界観が特徴です。
    • 「幻獣契約クリプトラクト」
      • 2015年リリースのターン制RPG。2023年6月にサービス終了済み。独自システム「幻獣契約」が特徴的なゲームです。
  • 請求内容:
    • 損害賠償金10億円+遅延損害金
    • 「メメントモリ」のサービス停止
  • 訴訟の背景:
    BOI社が株主向けに公表するお知らせによれば、セガ社が保有する特許を巡るライセンス交渉が決裂したため、訴訟に至ったとされています。

争点となる特許技術

セガ社が侵害を主張する特許は以下の5件です。いずれもゲームにおけるガチャキャラクター合成機能に関連します。

1. 特許第5930111号

  • 発明の概要:
    対戦型のカードゲームにおいて、同一キャラクターを複数枚所持している場合(いわゆる、キャラ被りの場合)に、そのキャラクターの能力を強化する仕組みです。
  • 特徴:
    • 例えばこのシステムによれば、レア度の低いキャラでも、複数枚集めることで高レア度キャラ並みの性能が得られるようにすることができます(請求項2)。
    • この特許は、親特許(出願日:2009年)の明細書に記載されていた特徴をもとに、後から権利化したもの。親特許は、レアカード(物理カード)の価値低下を防ぐために、代替カードをレアカードとして認識してゲームに用いるという発明であり、方向性が異なります。
    • 図面から、WCCF(WORLD CLUB Champion Football)というアーケードゲームの発明を保護するために出願された特許であると考えられます。
  • コメント:
    現代の多くのゲームで一般的な機能のように思われますが、当時は新規性が認められる技術だったのだと思います。

2. 特許第6402953号

  • 発明の概要:
    ガチャを一定回数回すことで、特定のレアキャラクターを必ず取得できる「天井システム」です。
  • BOI社との関連:
    この特許は、「メメントモリ」における「ガチャ300回でSRキャラと交換可能な『魔女の招待状』という回数報酬制度」に対して持ち出されたものではないかと考えられます。

3. 特許第6891987号

  1. 発明の概要:
    • 同種のキャラクターを自動抽出し、一括で合成するシステムです。
    • 合成においては合成元キャラと素材キャラを選択しますが、このとき、「レアリティが低いキャラを素材キャラとして選択する」という点が特徴的です。
  2. BOI社との関連:
    「メメントモリ」や「幻獣契約クリプトラクト」で同様の機能があるかは確認していませんが、この特許発明と類似する機能を持つゲームは多いと考えられます。

4. 特許第7297361号

  • 内容: 第6891987号の分割出願。

5. 特許第7411307号

  • 内容: 第6402953号の分割出願。

BOI社が取り得る対抗策

BOI社としては、主力サービスである「メメントモリ」のサービス停止は、何としてでも避けたいところでしょう。

BOI社が株主向けに公表するお知らせによれば、BOI社は「特許権侵害にあたらない」との立場を取っています。また、万が一侵害が認定された場合でも、サービス停止を回避する方針を表明しています。おそらく設計変更(該当する機能を削除または代替仕様に変更すること)により、サービス停止については回避可能であると考えているのではないでしょうか。

なお、特許権侵害や警告における対抗策として、カウンター特許で対抗する(自社が保有する特許権を行使することでお互い様の状態を作る)という手段もあります。しかしBOI社は特許保有数がわずか2件(ゲーム恋活アプリに関する特許)。万が一侵害が認定されたとしても、セガ社へのカウンター特許による対抗手段は事実上難しいのではないかと推察します。


今回のニュースの考察

ここまでセガ社がBOI社に対して特許訴訟を提起した背景、特許の内容、BOI社が取り得る対抗策についてご説明しました。今回のニュースを受けて、以下のように考察します。

  1. 特許リスクの見過ごし:
    セガ社が分割制度を利用して後から特許権を取得し、ライセンス交渉を優位に進めようとした可能性が考えられます。例えば、特許第5930111号は2009年の親出願の明細書本文に記載された内容をもとに後年権利化されており、企業にとってリスクが見えにくい状況を生み出しています。
  2. 当たり前技術への特許権行使:
    「天井システム」や「一括合成機能」など、現在は一般的になっていると思われる機能が特許で保護されている点は、ゲーム業界全体にとって脅威になります。
  3. 特許ポートフォリオの重要性:
    特許出願を積極的に行わない企業は、こうした特許訴訟やライセンス交渉で不利な立場に立たされる可能性が高まります。今回のニュースを受けて、特許ポートフォリオの重要性を強く感じました。

BOI社が設計変更でリスク回避を図るのか、BOI社の行為がそもそも特許権を侵害するものではなくBOI社が訴訟で勝利するのか、セガ社との和解に向けた交渉に動くのか・・・紛争解決の行方が注目されます。今後も、訴訟の状況をウォッチしていきたいと思います。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。