こちらの記事で、商標法には、「登録された通りに使用していないと取り消すよ」という不使用取消審判制度があることを説明しました。

不使用取消審判が請求された場合、登録商標を使用していることを商標権者が証明しないと、登録商標は取り消されることになります。

上記記事の中で、使用するときに商標をちょっと変えてしまっていても「社会通念上同一と認められる範囲」なら、登録商標を使用したと認めてあげるよ、という規定があることをご紹介しました(商標法第38条第5項かっこ書き)。

この記事では、不使用取消審判における「社会通念上同一と認められる範囲」が具体的にどのような範囲なのかを解説します。

※この記事では、あくまで不使用取消審判における「社会通念上同一の範囲」を解説するものであり、先登録商標の「同一・類似の範囲」とは必ずしも一致するものではないことをご留意ください。

この記事のポイント
  • 読み方&意味が完全に同じ」であれば、「社会通念上同一」とされる傾向にある。
  • その他、審判便覧に記載の変形であれば「社会通念上同一」とされる可能性が高いが、分野によるため注意。
  • 基本的には、登録商標は登録された通りに使用するべき

特許庁が想定する「社会通念上同一」のライン

特許庁が定める審判便覧には、「登録商標の使用と認められる事例」、つまり社会通念上同一と認められる範囲の変形例が記載されています。

だたし、登録商標の使用と認められるかどうかは、指定商品・指定役務の産業分野における取引の実情により、個別具体的に判断されるべきものであり、「この事例通りの変形だったら絶対大丈夫」というわけではありません。

以下では、審判便覧に記載された事例を分かりやすく解説します。

(ア)同じ文字だけどフォントだけ変える

登録商標が文字商標である場合、登録商標から書体(フォント)だけを変えた商標を使用していたとしても、「社会通念上同一」と認められます。

 (これはOK)明朝体↔ゴシック体

 (これはOK)ローマ字の大文字↔小文字

(イ)ひらがな、カタカナ、ローマ字間を相互に変更する(ただし読み方&意味は同じ)

登録商標が文字商標ある場合、ひらがな、カタカナ、ローマ字間を相互に変更する変形であれば、「社会通念上同一」と認められます。

ただし、登録商標と使用商標との間で、読み方と意味が完全に同じ場合に限ります

 <これはOK>ひらがな↔カタカナ(読み方&意味が完全に同じ)

 <これはOK>ひらがなorカタカナ↔ローマ字(読み方&意味が完全に同じ)

変更により異なる意味が生じてしまう場合や、いずれかに異なる意味が含まれる場合には、社会通念上同一とは認められない(=NG)ので注意です! 

 <これはNG>変更により異なる意味が生じてしまう場合

 <これはNG>いずれかに異なる意味が含まれる

また、読み方が違う漢字↔ローマ字の相互間の使用は、社会通念上同一とは認められません。

 <これはNG>読み方が違う漢字↔ローマ字

(ウ)見た目がほぼ同じ図形

登録商標が図形商標であり、外観において同視される図形、つまり見た目がほぼ同じ図形を使用していた場合も、「社会通念上同一」として認められます。

 <これはOK>見た目がほぼ同じ

見た目が違いすぎると、社会通念上同一とは認められません。たとえ読み方や意味が完全に同じであっても、です。

 <これはNG>見た目が大きく異なる

図形に関しては、どこまでが同じかというラインを引きにくいです。別画法をとれば、「社会通念上同一」とは認められなくなる傾向にあります。

図形内に文字を含む場合には、文字と図形とが分離されて使用されれば、「社会通念上同一」とは認められなくなります。

 <これはNG>文字と図形を分離して使用(取消平10-031259)

(エ)ひらがな・カタカナと漢字との間で変更する(ただし読み方&意味は同じ)

登録商標が文字商標ある場合、ひらがなorカタカナと、漢字間を相互に変更する変形であれば、「社会通念上同一」と認められます。

ただし、登録商標と使用商標との間で、読み方と意味が完全に同じ場合に限ります

 <これはOK>ひらがな↔カタカナ(読み方&意味が完全に同じ)

 <これはNG>いずれかに異なる意味が含まれる

(オ)2段書き商標で、上段と下段が同じ意味を持つ場合、その一方を使用する

ひらがなと漢字,カタカナとアルファベットなどを上下2段で併記する商標、いわゆる「2段書き商標」で出願することがあります。

2段書き商標の場合、上段と下段の読み方が違っても上段と下段が同じ意味を持つ場合は、その一方を使用しても、「社会通念上同一」と認められる可能性が高いです。

 <これはOK>2段書き商標↔上段または下段(上段および下段の意味が同じ)

 <これはNG>上段と下段とで意味が異なる(取消2005-030543)

「SERPAS」は造語であり、特定の意味を持ちません。しかし「サーパス」は、造語である「SERPAS」よりも、むしろ、「超える」の意味を有する英語「SURPASS」を想起することができます。

このように上段と下段とで意味が異なるので、この事例の上段および下段の一方の使用は「社会通念上同一」とは認められませんでした。

(カ)縦書き↔横書きで変更する(ローマ字の場合は右横書きを除く)

縦書きを横書きに、または横書きを縦書きに変形して使用することは、「社会通念上同一」と認められます。ただし登録商標がローマ字の場合、右横書きにして使用しても、「社会通念上同一」とは認められません。

 <これはOK>縦書き↔横書き

まとめ

不使用取消審判が請求された場合、登録商標を使用していることを商標権者が証明しないと、登録商標は取り消されることになります。

不使用取消審判において「登録商標の使用」と認められる範囲、つまり「社会通念上同一と認められる範囲」について解説しました。

基本的には文字商標であれば「読み方&意味が完全に同じ」なら、社会通念上同一とされる傾向にあります。しかし、図形は、読み方&意味が完全に同じであっても、見た目が異なれば、社会通念上同一とは認められません。

なお、指定商品・指定役務の産業分野により、社会通念上同一かどうかの判断は異なります。したがって、他社につけ込む隙を与えないためにも、登録商標は「登録された通りに」使用するのが無難だと思います。

まとめ
  • 読み方&意味が完全に同じ」であれば、「社会通念上同一」とされる傾向にある。
  • その他、審判便覧に記載の変形であれば「社会通念上同一」とされる可能性が高いが、分野によるため注意。
  • 基本的には、登録商標は登録された通りに使用するべき