きのか特許事務所の弁理士室伏です。
パテントマップという言葉を聞いたことはありますか。
特許情報は公開されており、誰でも見ることができます。パテントマップは、公開されている特許情報を調査・分析し、業界や競合の動向等を、グラフや表で視覚的に表したものです。
特許は技術情報ですので、特許情報を分析することによって、業界動向や競合の注力分野を知ることができます。しかし特許情報分析から分かることはそれだけではありません。時に、企業間のつながりや企業内の人事が分かることもあります。
本ブログでは、「特許情報からどんなことが分かるか」を具体的にお伝えするために、簡易分析事例をご紹介します。本記事では、第1回としてゲーム関連特許の簡易分析事例をご紹介します。分析にあたっては、Lensというツールを主に用いました。
「プロセスはいいよ、結果だけ見せてよ」という方は、まとめをお読みください。
1. ゲーム関連特許の特許分類は?
まずはゲーム関連の特許分類を調べます。予備検索でゲーム関連の2つのIPC(国際特許分類)を見つけました。これを使っていきましょう。
IPC | セクション | 説明 |
G07F17/32 | 物理学 | ゲーム用具,玩具,スポーツ用具,または娯楽用具に関するもの |
A63F13/00 | 生活必需品 | 2次元以上の表示ができるディスプレイを用いた電子ゲーム,例.テレビ画面を用いるゲーム |
2. ゲーム関連特許を検索してみよう!
Lensに以下の検索式を入力して、ゲーム関連特許を検索しました(2023/3/1検索)。
検索式:class_ipcr.symbol:(G07F17/32) OR class_ipcr.symbol:(A63F13)
230,815 件がヒットしました (シンプルファミリーは96,397 件)!
2. 全体の出願傾向を知ろう!
まずは期間指定をせずに、全体の傾向をつかんでいきます。
(1)出願傾向(期間指定なし)
青プロットが出願件数、黄プロットが登録件数です。リーマンショック(2008年)のときに減少したものの、年々増加傾向です。
(2)出願人ランキング(期間指定なし)
どういう企業がゲーム関連の特許を多く出しているのでしょうか。出願人ランキングを見てみましょう。
簡易分析なので、名寄せはしていません。1位のIGT(International Game Technology)は、イギリス・アメリカにあるカジノ用のスロットマシンメーカです。2位は任天堂でした。上位20位のうち、半数は日本企業です。さすがゲーム大国日本!
(3)出願国ランキング(期間指定なし)
どういう国にゲーム関連の特許が多く出願されているのでしょうか。出願国を見ていきましょう。
アメリカ、日本、中国の順で、出願されていることが分かりました。
3. 最近の出願傾向を知ろう!
最近の出願に絞って、傾向を見ていきたいと思います。2018年1月1日以降でフィルタリングして、パテントマップを作成しました。
(1)出願人ランキング(2018年以降)
1位は中国のテンセントです。2位のNetEaseも中国企業です。
こちらは件数のバーチャート。件数で見ても、中国企業の出願の多さが目立ちます。
1位のテンセントや2位のNetEaseは、4位(+9位)のソニーや8位の任天堂よりも件数が多いですね。近年中国のゲーム会社が出願件数を急激に伸ばしていることが分かります。
ちなみに3位のAristocrat Technologies Auは、オーストラリアのゲーム開発会社。世界中のランドカジノ向けスロットマシンの生産を行っているようですが、近年オンラインゲーム部門も強化しているとのことです。
(2)出願国ランキング(2018年以降)
中国企業が多いので、出願国も中国が当然多くなります。日本出願は中国出願の半分ですか。
(3)発明者ランキング(2018年以降)
多数の特許を出願している開発者もこのツールで知ることができます。
1位は「シゲタヤスシ」さんという日本人の方でした。カジノプレイングカード等を開発するエンゼルグループでCEOをされている方です。
4. テンセントのゲーム関連特許を深堀
近年のゲーム関連の出願件数がトップだった「テンセント」の特許をもう少し見ていきたいと思います。
(1)テンセントの出願傾向(2015年以降)
2018年あたりから出願が急増しています。コロナの影響で2021年の出願が伸びていないものの、勢いがあります。
(2)テンセントの出願国ランキング(2015年以降)
テンセントの出願国を見ていきましょう。中国出願が多いのは当たり前ですが…
中国、アメリカ、ヨーロッパ、韓国の順に出願されています。
あら…?日本にはほとんど出願されていませんね…日本にはサービス展開しないということなのでしょうか…
少し寂しい気もしますが、日本で権利化されていないものについては、日本企業が輸入できる技術があるかもしれないですね。
(3)どんな出願をしている?
出願内容をざっくりと把握するために、IPC×IPCのマトリックスを作成しました(これはLensでは作れません)。
表示態様に関する技術が圧倒的に多いです。中でも、進行によってキャラクタやオブジェクトの表示態様が変わるもの、ターゲットを射撃すると進行や表示態様が変わるものがありました。
また他のキャラクタとの関係で動きや状態を変えるものが多く出願されていました。さらにタッチ入力に特徴があるものも多く出願されていました。
(4)どんな企業と組んで開発している?
出願人をテンセントに絞った状態で出願人ランキングをとることで、共願人を知ることができます。
テンセントのゲーム関連の出願はほぼ単願ですが、株式会社ポケモンとの共願が6件あることが確認できました。
さて、株式会社ポケモンと付き合いがあるのはいつごろの話でしょうか?もう終わってしまった?まだ続いている?
これを確認するために、テンセント×株式会社ポケモン(+ ポケモンKk)で出願人を絞り込み、確認できる出願の最先の優先日を見てみました。
2020年に4件、2021年に2件、共願で出していることが分かります。2022年の分は未公開ですので確認はできませんが、共同開発はまだ続いているのではないかと予想します。
もちろんこの母集団で発明者ランキングをとることで、開発に深く関わった開発者もすぐに確認できます。ここではあえて載せませんが。
(5)テンセント×ポケモンの出願を見てましょう!
どんな出願がされているのでしょうか?1つピックアップしてみてみましょう。
味方チームと敵チームとに分かれて勝敗を決めるゲームのようです。出現したキャラクタを倒すとポイントがもらえ、獲得したポイントの量をチームで競います。
ここでプレイヤには獲得できるポイントの上限が定められており、キャラクタを倒しても累計で上限を超えてしまうと、超えた分のポイントはもらえません。代わりに超えた分のポイントのオブジェクトを現場近くに表示させて、近くにいる味方チームや敵チームの他のプレイヤが獲得できるようにする、というもののようです。
不慣れなプレイヤーでも、対人バトル以外のアクションでチームに貢献できるようにしたものです。
注目は図面の可愛さです。
画面真ん中に、あの大人気キャラクタに似たオブジェクトがありますね。とってもKAWAII。癒されますね。
5. まとめ
ゲーム関連特許の簡易分析を行いました。
- ゲーム大国の日本ですが、近年中国企業が出願件数でいうと圧倒的だということが分かりました。
- 近年の出願トップのテンセントの出願を見ると、日本にはほとんど出願(移行)していないことが分かりました。逆に言うと、日本において中国から輸入できる技術がたくさんある、かもしれません。
- テンセントとポケモンの共同開発も確認できました。2020年頃から始まり、おそらくまだ終わっていないでしょう。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。