きのか特許事務所の弁理士室伏です。このシリーズでは、「特許情報からどんなことが分かるか」をお伝えするために、特許情報の簡易分析事例をご紹介します。

第1回はゲーム業界の簡易分析事例を、第2回はニット業界の簡易分析事例をご紹介しました。

そして第3回、第4回は、特許の発明者情報から他社の開発体制を詳細に推測できるというお話をしました。

そして今回は、和歌山県内の企業の特許出願の動向を見ていきます。

1. 和歌山の出願総数の推移

まずは和歌山県内の企業の特許出願の件数の推移を見ていきましょう。以下のグラフは、和歌山県を所在地とする出願人による国内の特許出願件数です。

2018年に急激に落ち込み、2019年には回復しています。しかし回復は続かず、2020年以降はまた急激な落ち込みを見せています。新型コロナウイルスの影響なのでしょうか。

2. 和歌山の出願人ランキング

出願人所在地が「和歌山県」である2016年~2021年の特許出願(実用新案登録出願を含む)の件数を調べ、出願人ランキングをとりました。

1位と2位の企業の特許出願件数が、他の企業のそれよりも圧倒的に多いことが分かりました。

1位は、和歌山市に本社を有する上場企業「島精機製作所」です。毎年25件程度の特許を出願しています。2位は、事務機メーカの「デュプロ精工」です。毎年20件程度の特許を出願しています。

3位は、1位、2位から大きく離れて「和歌山大学」です。出願件数にばらつきがあります。

4位は、農業器具(農薬噴霧ノズル)メーカの「ヤマホ工業」です。その後、インクジェットプリンタの「紀州技研工業」、食品機械および駐輪管理の「匠技研」、商業用冷蔵庫の「三菱電機冷熱応用システム」と続きます。

ちなみに和歌山が誇るモビリティベンチャー「glafit」は28位です。

3. 和歌山の技術分野(粒度:大)

では和歌山の企業は、どの技術分野に多く出願しているのでしょうか?近年の注力分野はどこでしょうか?これを明らかにするために、特許出願に付された特許分類(FI)を見てみましょう。

まずは粗く、セクションで見ていきます。

和歌山の企業は、「A:生活必需品」、「B:処理操作;運輸」の分野の出願が他分野と比べて多いです。また島精機製作所が得意とする「D:繊維;紙」の出願も比較的出ています。

「C:化学;冶金」の出願件数は多くないということが分かりました。和歌山には化学メーカが多いという印象を持っていたので、個人的には意外な結果でした。

年別に見ると、急激に減った・急激に伸びたという分野はないようです。しかし、「C:化学;冶金」、「D:繊維;紙」、「F:機械工学;照明;加熱;武器;爆破」、「G:物理学」、「H:電気」の出願件数は減少気味です。

4. 和歌山の技術分野(粒度:小)

今度は特許出願に付された特許分類(FI)をもう少し詳細に見てみましょう。

(1)セクションA~C

まずは「A:生活必需品」、「B:処理操作;運輸」、「C:化学;冶金」のクラスごとの件数を見ていきます。

各セクションで件数が多いクラスを抽出していきます。

家具・家庭用品(A47)と、運搬・包装・貯蔵系(B65)が目立ちます。運搬・包装・貯蔵系(B65)は最近伸びていますね。

また切断手工具(B26)も件数を伸ばしています。

一方で、有機化学(C07)を始めとする化学セクション(C)は、件数が減少傾向です。

(2)セクションD~H

次に「D:繊維;紙」、「E:固定構造物」、「F:機械工学;照明;加熱;武器;爆破」、「G:物理学」、「H:電気」のクラスごとの件数を見ていきます。

比較的件数が多いクラスを抽出していきます。

メリヤス編成(D04)の分野はコンスタントに出願されています。一方、繊維の処理(D06)の出願件数は減少傾向です。

測定(G01)の出願件数も減少傾向です。一方、計算(G06)の分野はコンスタントに出願されています。

電気通信(H04)は減少傾向です。

5. まとめ

和歌山県内の企業の特許出願の動向を調べました。2020年以降で出願件数が急激に落ち込んでいました。

出願人別に見てみると、和歌山県内では、島精機製作所とデュプロ精工の出願件数が圧倒的に多いことが分かりました。

技術分野については、和歌山では「A:生活必需品」、「B:処理操作;運輸」の分野の出願件数が他分野と比べて多いことが分かりました。また近年急激に伸びた、急激に減ったという分野はないようですが、全体的に減少傾向の分野が多そうです。そんな中、運搬・包装・貯蔵系(B65)や切断手工具(B26)は増加傾向であることが分かりました。

ここまでお読みいただきありがとうございました。