きのか特許事務所の弁理士室伏です。このシリーズでは、「特許情報からどんなことが分かるか」をお伝えするために、特許情報の簡易分析事例をご紹介します。

前回からビジネスモデル特許の出願動向を見ています。前回はビジネスモデル特許の全体的な傾向をざっくりと調査しました。

第7回である今回はその続きです。今回は、分野を絞って、金融・保険・税金系のビジネスモデル特許の出願動向について調べたいと思います。なお前回の記事において、金融・保険・税金系の出願件数は、他の業種に比べて出願件数が少ないことが分かっています。この分野を深掘りすることで、新規参入しやすい領域が見えてくるかも知れません。

1. 特許分類

前回の記事において、ビジネスモデル特許の特許分類(FI)のサブクラスがG06Qであることをご説明しました。金融・保険・税金系の特許分類は、G06Qの下層のG06Q40です。

2. 出願件数の推移

金融・保険・税金系の出願件数の推移を、G06Q40という特許分類(FI)を用いて見ていきましょう。

金融・保険・税金系の出願件数は、ビジネスモデル特許全体の出願件数と同じように、お椀型の挙動を示しています。そして2011年ごろから出願件数は増加傾向です。

この挙動の理由は、ビジネスモデル特許全体のそれと同様であると考えられますので、ここでは省略します。

3. 出願人ランキング

出願件数の多い企業はどこでしょうか?これを調べるために出願人ごとの出願件数からランキングをとりました。その結果、首位は沖電気工業、2位は日立製作所、3位は富士通であることが分かりました。

最近この分野に注力している企業はどこでしょうか?これを調べるために出願人×出願年ごとの出願件数を見てみました。

出願件数(総数)では首位の沖電気工業ですが、最近は出願件数が少なめ。逆にオービックが2016年から急増しています。またZホールディングス(ヤフーが前身)も2016年からの出願が目立っています。

4. 技術分野の傾向

(1)FIから技術分野の傾向を知る

金融・保険・税金系といっても、具体的にどのような分野が多く出願され、どのような分野の出願が少ないのでしょうか。これを調べるために、まずは特許分類(FI)をもう少し詳細に見ていきます。

利息計算または口座メンテナンスといった「銀行業務」(G06Q40/02)が圧倒的に多いです。次に株式、商品、デリバティブまたは外国為替といった「取引;交換」(G06Q40/04)が来ます。そして「資産管理;財務計画または分析」(G06Q40/06)、「保険」(G06Q40/08)、「会計」(G06Q40/12)、「信用;ローン;それらの処理」(G06Q40/03)、「税戦略」(G06Q40/10)といった順です。

出願件数が最も少ない「税戦略」。いまいちピンと来ないのですが、これってどういう発明なのでしょうか?J-PlatpatのFIハンドブックによると「将来の納税義務,リスクまたは政府機関への税金の支払いに対処することに特に適合したICT」ということです。

●「税戦略」に関するビジネスモデル特許の例

「税戦略」の特許分類が付与された特許の例を示します。

特許6408075

発明の名称:資産承継支援システム、資産承継支援方法及び資産承継支援プログラム

出願日:平成29年6月20日

出願人:みずほ情報総研株式会社、株式会社みずほ銀行

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相続時の財産分割を検討する際に、相続人が複数人いる場合、どう分割するかが問題となります。分割のやり方は様々ですが、やり方によって相続税額、贈与税額等の承継コストが変わります。この発明は、そういった承継コストを考慮した、効率的かつ的確な資産承継を支援するシステムの発明です。

特許6408075の図6(b)

まずユーザが、配偶者の有無、法定相続人の人数、財産額、財産の種類等の基本情報を入力します。次に上図のように家系図と相続関係者のアイコンがタブレット上に表示されるので、ユーザはドラック&ドロップ操作でアイコンを配置させます。これにより家系図を完成させます。

特許6408075の図6(c)

家系図が完成されると、家系図の下方に財産種類別の財産アイコンが表示されます。ユーザは、家計図における相続人の位置を考慮しながら、ドラッグ&ドロップ操作により財産を割り当て、分割案を作ります。

特許6408075の図8

作成した分割案に基づいて各相続人の相続税が算出され、相続税の額に応じて承継コスト対策候補情報が表示されます。ちなみに承継コスト対策とは、「死亡保険金の非課税枠の活用」、「生前贈与の活用」、「収益不動産の活用」、「資産管理会社の活用」等のようです。

なるほど、確かに「税戦略」という分類がぴったりの発明でした。

(2)Fタームから技術分野の傾向を知る

別の観点からも技術分野の傾向をチェックしましょう。ここでは、さきほどのFIとは別の観点であるFタームという特許分類を使います。今回は、「金融・保険関連業務,支払・決済」に対応するFターム「5L055」を使っていきます。

金融・保険・税金系のうち、「5L055」というFタームが付された出願の件数を見ました。

全体的にはATM等の「無人取引機」(5L055AA39)の出願が多いですが、最近は減少傾向です。最近はネットバンキングが盛んですからね。

「保険」(5L055BB61)は、全体の件数で言うと4位ですが、近年件数が急増していることが分かります。ホットな分野と言えるでしょう。

「金融派生商品」(5L055BB53)は、全体の件数が他の分野より少なく、際だった増減は見られません。

最後に、最近ホットな「保険」(5L055BB61)と、目立たない「金融派生商品」(5L055BB53)、それぞれについて登録例を見てみましょう。

●「保険」に関するビジネスモデル特許の例

「保険」の特許分類が付与された特許の例を示します。

特許6476166

発明の名称:本人情報取得システムおよび本人情報取得方法

出願日:平成26年3月28日

出願人:株式会社日立製作所

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こちらは「証券」の分類も付与されています。タブレット端末を用いた金融商品の対面営業に際し、重要事項説明や契約時の顧客意思の最終確認等の重要な場面での顧客の動作の証左を低コストで効率良く取得する技術です。

特許6476166の図8

重要事項説明後の意向確認の段階で、意向確認ボタンを顧客が押す前に顧客の顔を撮影します。顧客の顔輪郭が所定の位置に収まっており、かつピントも合っていれば、意向確認ボタンをアクティブにします。意向確認ボタンが押されたタイミングの顔画像を記録します。この顔画像が証左となります。

一方、顔輪郭が所定の位置に収まっていない、またはピントが合っていなければ、意向確認ボタンを押せない状態にします。

特許6476166の図7

上図の状態では意向確認が完了できない、ということです。

●「金融派生商品」に関するビジネスモデル特許の例

「金融派生商品」の特許分類が付与された特許の例を示します。

特許6812034

発明の名称:為替取引情報表示プログラム

出願日:令和2年2月1日

出願人:ASSEST株式会社

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この発明は、為替取引の通貨(FX)に関する助言を行うプログラムの発明です。具体的には、金利、為替、各銘柄の株価、原油、先物、貴金属、ビットコイン等の値動きを対象とした市況情報から、将来起こりえる各通貨の為替の状況を予測して表示するものです。

一例として予測には人工知能(AI)を使っています。

特許6812034の図3

過去の市況情報である参照用市況情報と、それを取得した時点の為替の増減データとを沢山集め、これらの間の関連性の度合い(=連関度)を学習していきます。上図において連関度は、ニューラルネットワークのノード同士をつなぐ重み付け係数wで表されています。

この発明は、上述の学習済の連関度を用いて、新たに取得する市況情報から、将来起こりえる各通貨の為替の状況を探索し、ユーザ(コンサルタント)に表示するというものです。

5. まとめ

  • 金融・保険・税金系のビジネスモデル特許の出願動向を調査しました。出願件数は、ビジネスモデル特許全体の出願件数と同様に、2011年ごろから増加傾向です。
  • 出願人を見ると、オービックやZホールディングスの出願増が目立っていました。
  • 技術分野を詳細に見ると、「税戦略」(将来の納税義務,リスクまたは政府機関への税金の支払いに対処することに特に適合したICT)の出願件数が少ないことが分かりました。ブルーオーシャンかもしれません。
  • 別の観点から技術分野を見ると、「保険」が近年ホットな分野であり、「金融派生商品」は出願件数が少ないことが分かりました。

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。