当ページをご覧いただきありがとうございます。きのか特許事務所です。当事務所では、化学分野の特許戦略に関する知財情報を複数回にわたってお届けしています。

新しい発明を生み出した場合、企業としては、公開するか(主に特許出願により公開)、その発明を秘匿化するかを選択しなければなりません。秘匿化の代表例は、「コカ・コーラのレシピ」です。

秘匿化を選択する場合には、その発明の漏洩を防止するために秘密管理を徹底する必要があります。さらに他社に後発的に特許化された場合に備えて、先使用権を主張する証拠を残していく必要があります。

そこで今回は化学分野の特許戦略というテーマで、特に「秘密管理」についてお話します。

「秘密情報」とは?

そもそも秘密情報とは何でしょう?秘密情報は、公になっていない社内保有の情報のほとんどすべてです。例えば、顧客情報、仕入情報、販売情報(見積書・プレゼン資料)、技術情報(レシピ・図面・工場ライン)がこれにあたります。

不正競争防止法で保護される「営業秘密」とは?

秘密情報のうち、以下の3要件を満たす「営業秘密」は、不正競争防止法で保護されます。

営業秘密の3要件

(1)非公知性(公に知られていない)

(2)有用性(事業・開発活動に有用)

(3)秘密管理性(秘密としてきちんと管理されている)

新しい技術を秘匿化する場合は、この3要件を満たすようにしなければなりません。1つでも要件を満たさなければ、不正競争防止法で保護されません。

流出しては困る新しい技術は事業・開発活動に有用なものでしょうし、既に公に知られている情報を秘密にすることはできませんので、企業として具体的にやるべきことは「秘密管理(つまり情報漏洩対策)を徹底する」ということになります。

秘密管理の方法

では「秘密管理(情報漏洩対策)」にはどのような方法があるのでしょうか。

経済産業省が公開する「秘密情報の保護ハンドブック」では、秘密管理の方法として以下の5つの方法を紹介しています。

  1. 秘密情報に近寄りにくくする
    • 例:アクセス権の設定、行内ルートの制限、施錠管理、ペーパーレス化、ファイアーウォールの導入
  2. 持ち出しを困難にする
    • 例:私用USBメモリの利用・持ち込み禁止、会議資料等の回収う、電子データの暗号化、外部へのアップロード制限
  3. 漏洩が見つかりやすい環境づくり
    • 例:座席配置・レイアウトの工夫、防犯カメラの設置、関係者以外立入禁止看板の設置、PCログの記録、作業の録画
  4. 秘密情報だと思わなかった!という事態を招かないための対策
    • 例:マル秘表示、ルールの策定・周知、秘密保持契約の締結、無断持ち出し禁止の張り紙、研修の実施
  5. 社員のやる気を高め、秘密情報を持ち出そうという考えを起こさせないための対策
    • 例:ワーク・ライフ・バランスの推進、コミュニケーションの促進、社内表彰、漏洩事例の周知

近年はテレワークが盛んになり、テレワーク端末での無線LANの脆弱性対策や、外部サービスの利用に対する対策等、今まで以上の対策が求められています。テレワークでの秘密管理については経済産業省が公開する「テレワーク時における 秘密情報管理のポイント」が参考になります。

秘密情報の漏洩ルートは結局は「人」

以上、情報漏洩をシステムから防止する方法を紹介しましたが、秘密情報の主な漏洩ルートは「人」です。退職者、取引先、共同開発先、または従業員等が、意図的かどうかは別として情報を漏洩しているのです。

上記の秘密管理の方法を徹底したとしても、人による漏洩を完璧に止めることは難しいです。したがって、新しい発明を生み出した場合に、その発明を秘匿化するという選択にはリスクがあることを認識すべきです。秘匿化したから安心、とはなりません。

発明を秘匿化しても他社に同じ発明の特許を取られることがある

秘匿化を徹底しても、他社が同じ発明の特許を後発的に取ってしまうことがあります。

情報漏洩が原因なら、無効審判や移転請求という手段をとり得ます。また不正競争防止法で訴えるという手段もあります。

しかし他社がその発明を独自に開発した場合は、上記手段をとることはできません。

このとき侵害を免れるためには、ライセンス料を払うか、その特許が無効である根拠となる資料を探すか、何等かの権原があることを主張しなければなりません。

次回ご説明する「先使用権」は、その「何等かの権原」にあたります。

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