特許出願において、「邪魔だ」と思う特許を見つけた際に、第三者がその特許性について指摘する手段があるのをご存じでしょうか?
それが「特許の情報提供制度」です。この制度は、特許庁に対して関連情報を提供することで、出願された発明の審査に影響を与えることができる仕組みです。本記事では、この制度の概要や活用のポイントを分かりやすく解説します。

1. 情報提供のタイミング

情報提供は、特許出願後、特許付与後を問わず、いつでも行うことが可能です。ただし、情報を提供する目的に応じてタイミングを工夫することで、より効果的な結果を期待できます。

適切なタイミング例

  • (1) 審査請求後、最初の拒絶理由通知が出る前
    審査官にとっての「基本情報」として利用される可能性が高まります。
  • (2) 拒絶理由通知後、応答期限内
    出願人に対し、応答の難易度を上げるプレッシャーを与える狙いがあります。
  • (3) 応答後間もない時期
    応答書面の内容に対して意見を述べ、審査官の判断に影響を与えることが期待されます。
  • (4) 前置審査解除後
    前置報告書に基づく内容について指摘し、審査の流れを再考させる効果を狙います。

2. 情報提供できるのは誰でも

情報提供は、どなたでも行うことが可能です。また、匿名での提出も認められています。
例えば競合他社の特許出願に対して直接的な影響を与えたい場合でも、自身の存在を伏せることができるため、心理的負担も少なく利用できるでしょう。


3. 必要な書面:刊行物等提出書

情報提供の際には、「刊行物等提出書」(特許法施行規則 様式第20)を提出します。この書面では、以下のようなポイントを審査官に伝えます。

  • 新規性がない理由:「出願前に公開された刊行物に記載されている内容と同一である」
  • 進歩性がない理由:「複数の刊行物を組み合わせると、出願された発明は容易に思いつくものである」

書面作成のポイント

刊行物等提出書はフォーマットの自由度が高いですが、心証形成のためにも、審査官の思考に寄り添った構成が求められます。
例えば、拒絶理由通知書のように以下の構造で記述すると、説得力が増します。

  1. 対象となる発明の内容
  2. 刊行物の記載内容
  3. 対比と組み合わせ可能性の検討

4. 匿名性を守る仕組み

情報提供を行う際に気になるのが、自分の情報が審査官や出願人に伝わらないかという点です。
ご安心ください。特許庁が公開するQ&Aにもあるように、情報提供制度は匿名性がしっかりと担保されています。

匿名性に関するQ&Aのまとめ

  • 出願人や第三者に特定されない
    電子出願でも郵送でも、送信者情報が閲覧されることはありません。
  • 審査官に特定されない
    提出者の識別番号などの情報は審査官には配布されません。

なおオンライン手続きにおいてPDFまたはJPEGイメージを添付する場合、ファイルのプロパティなどに作成者情報が設定されている場合がありますので、その点には十分ご注意ください。


5. 留意点:提供した情報が必ず審査に採用されるとは限らない

情報提供を行ったからといって、必ず審査に用いられるわけではない点には注意が必要です。
審査官は審査段階で証拠調べを行う権限を持たない(規定がない)ため、情報提供の内容だけで拒絶理由の心証を形成できない場合、提出資料は審査で採用されません。

このように、提供した情報が審査で十分に活用されるかどうかは、提供資料の内容や説得力に大きく依存します。そのため、情報提供書の作成には、審査の観点を理解した上での適切な準備が必要です。


6. まとめ:情報提供を戦略的に活用しよう

邪魔な特許出願がビジネスに悪影響を及ぼしそうなとき、この情報提供制度は非常に有用です。ただし、提供するタイミングや内容の精度によって、効果が変わるため、専門家のサポートを受けるのがおすすめです。

また前回の記事でも言及したように、情報提供をすると、その特許が重要であると出願人に認識されて、様々な対策を取られてしまうというデメリットもあります。

当事務所では、他社特許対処の戦略的なアプローチをサポートいたします。お気軽にご相談ください。


参考情報

  • 特許庁「情報提供制度について」
  • 特許・実用新案審査ハンドブック「1202 特許出願に対する情報提供」
  • 日本弁理士会研修「特許出願等に対する情報提供の実務」(講師:鈴木史朗弁理士)