こんにちは。きのか特許事務所の弁理士の室伏です。今日のテーマは「国内優先権」についてです。

国内優先権の概要

特許出願をした後に改良発明を権利化したい場合、先の出願の発明と改良発明とをまとめた出願をすることができます。これを国内優先権主張を伴った出願(=国内優先権主張出願)と言います。

「優先権」とは、先の出願と後の出願との間の期間に行われた行為によって不利な取り扱いを受けない権利です。「国内優先権」は、先の出願と後の出願とが日本の国内出願(※)であるときに主張できる権利です。

※厳密には以下の場合に国内優先権を主張できます。

先の出願後の出願
日本の国内出願日本の国内出願
日本の国内出願日本を指定国に含むPCT出願
日本を指定国に含むPCT出願日本の国内出願
国内優先権を主張できる組合せ

では「不利な取り扱いを受けない」とはどういうことでしょうか?もう少し具体的に説明したいと思います。

国内優先権の効果

特許は早い者勝ちです。また出願日が遅くなればなるほど、新規性(=新しいこと)・進歩性(=その分野の一般の専門家が容易に思いつかないこと)で拒絶される可能性が高まります。出願は早いに越したことはない、というわけです。

国内優先権主張をすれば、先の出願に記載されている発明については、早い方の出願日、つまり先の出願の日に出願したものとして新規性・進歩性等の判断がなされるのです。

したがって、先の出願と後の出願との間で第三者が発明を公開したとしても、それによって新規性・進歩性は失われません。

なお国内優先権出願をすると先の出願は出願公開前に取下げたものとみなされます。したがって、国内優先権出願だけが残る形となります。一本化されることで管理も楽になりますね。

国内優先権主張をするための要件

国内優先権を主張するためには、いくつか要件があります。

  1. 先の出願から1年以内に国内優先権出願をすること
  2. 先の出願が、分割、変更、実用新案登録に基づく特許出願ではないこと
  3. 先の出願が、放棄・取下げ・却下されていないこと
  4. 先の出願が、査定又は審決が確定していないこと

特に「1. 先の出願から1年以内に国内優先権出願をすること」の時期的要件が重要です。1年を超えますと国内優先権の利益は得られませんのでご注意ください。

また「4. 先の出願が、査定又は審決が確定していないこと」について、先の出願について特許権の設定登録がされた場合や拒絶査定を受けてから3か月経過した場合には国内優先権の利益は得られないということです。先の出願が実用新案登録出願であって、設定登録された場合も同様です。

この制度は結構使える

この制度をうまく利用すると、こういう場合に有効に対応することが可能となります。

(1)直近で学会発表をする予定があり、急いで出願したい場合

特許出願は、特許事務所に依頼してから出願完了まで一般的に1~2ヶ月かかります。ですので、直前の依頼には対応できないことが多いです。この場合、ひとまず発表内容や最低限の内容を記載した明細書により特急で出願した上で、後から国内優先権を利用して具体的な構成や改良構成を追加した正規の出願を行うことが有効です。とりあえず最低限の出願をして、後で出し直す、というイメージです。先の出願に記載された事項は、発表よりも前の日が新規性・進歩性等の基準日となるので、自己の発表により拒絶されることを避けられます。

ただし後から詳細を補充することは、発明を公開しても詳細までは分からないような分野(ex.ソフトウェア)では有効な場合が多いですが、公開すれば全て公知となってしまう分野(ex.構造物)では注意が必要です。

(2)スタートアップや中小企業が先行技術調査を行わずに出願する場合

スタートアップや中小企業は、審査待ちの期間を短縮する「早期審査」という制度を利用できます。早期審査をすれば、早期審査の申請から平均3か月以内で審査結果が出ます。例えば拒絶理由を有するとの旨の審査結果が通知され、引例が引かれた場合、これを解消するための補正を行うことが多いです。しかし当初の出願では書いていなかった新たな特徴については、補正で入れ込むことができません。そういった場合、国内優先権を主張して、新たな特徴を入れ込んだ出願を行うことが有効となります。審査官に素早く先行技術調査をしてもらい、改めて出し直すというイメージです。

もちろん先行技術調査をした上で、この手段を取ることもできます。

まとめ

国内優先権とは、先の出願の発明と改良発明とをまとめた出願をした場合に、先の出願に記載された発明については、先の出願の日に出願したものとして新規性・進歩性等の判断がなされるという制度です。

改良発明をまとめて出願したい場合の他、急いで出願したい場合や、早期審査と組み合わせて先行技術調査を行わずに出願する場合にも、この制度を利用することが可能です。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。